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大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)4530号 判決 1985年1月29日

原告

明生商事こと

坂田正治

右訴訟代理人

相馬達雄

山本浩三

中嶋進治

豊蔵広倫

小田光紀

藤山利光

被告

坂本昇こと

金昇漢

高嶋市太郎

主文

一  被告金昇漢は、原告に対し、金一二八〇万円およびこれに対する昭和五七年七月二八日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告金昇漢に対するその余の請求および被告高嶋市太郎に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用中原告と被告金昇漢との間に生じた分はこれを四分し、その一を原告、その余を被告金昇漢の各負担とし、原告と被告高嶋市太郎との間に生じた分は原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告金昇漢は、原告に対し、金一七四一万六四〇〇円およびこれに対する昭和五七年七月二八日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告高嶋市太郎は、原告に対し、金一〇七六万七〇〇〇円およびこれに対する昭和五七年七月二八日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決および仮執行の宣言。

二  被告ら

原告の請求を棄する。

との判決。

第二  請求原因

一  原告は、明生商事の名称で不動産売買の仲介等を業とするものである。

二  原告は、昭和五五年春ころ、被告金から、事業用地としてパチンコ店用地、マンション用地、病院用地等買受の仲介の依頼を受けてこれを承諾した。

三  原告は、右契約にもとづき次のとおり、仲介行為をして被告金が株式会社大林組(以下、大林組という。)より土地を買受ける契約を成立させた。

1  原告は、各方面に調査を行い、情報を収集し、被告金およびその従業員らを各方面の物件所在地に案内して紹介をした。

2  被告金は、昭和五六年後半ころから対象物件を淀川区内の新大阪駅周辺、東三国周辺地域に限定したので、原告は、その方針に従い、物件の調査を行つた。

3  原告は、大林組所有の別紙物件目録(一)記載の土地(以下、本件土地(一)という。)につき現地調査、権利関係の調査をし、大林組との契約条項の折衝等を行つた。

4  原告の右仲介により、被告金は、昭和五七年三月一七日、大林組との間で、被告金が大林組より本件土地(一)を代金二億四九八九万八〇〇〇円で買受ける旨の売買契約を締結した。

5  右売買契約成立による仲介報酬は七六四万九四〇〇円となるが、被告金は、原告に対し、その内金一〇〇万円を支払つた。

四  被告金は、次のとおり、被告高嶋から土地を買受けるについて原告の仲介を受けながら原告を排除して直接被告高嶋との間の売買契約を成立させた。

1  原告は、昭和五七年一月一三日、被告金と従業員の小森清作、小米良健二を淀川区西中島七丁目所在の三二坪の土地、同区西三国一丁目一四所在の一五八坪の土地、同区東三国所在の被告高嶋所有の一三七坪の土地およびその隣地七八坪の土地に案内した。被告金は、右各土地の立地条件等を比較した後、原告に対し、被告高嶋所有の右土地を取得したいので被告高嶋と交渉をすすめるよう依頼した。

2  被告金は、昭和五七年一月一四日、原告に対し、被告高嶋所有の淀川区東三国町三丁目一〇六番田一二九二平方メートルの一部(その後分筆、地目変更により、別紙物件目録(二)記載の土地となつた。以下、この土地を本件土地(二)という。)を取得したい旨くり返し要請したので、原告は、右土地の調査を行い、同月二二日、被告高嶋と面談して被告金が本件土地(二)の買取を希望している旨を伝えたところ、被告高嶋は考えておくとのことであつた。

3  原告は、昭和五七年一月三一日、被告金に対し、交渉の経緯と引続き交渉する旨を伝え、被告金は、本件土地(二)の取得希望をくり返すとともに、買取りができないときは借りてもよいと述べた。

4  原告は、その後も交渉を継続し、昭和五七年二月二二日、被告高嶋から、本件土地(二)はモータープールとして貸しており、その借主には一か月前に契約を解除すればよいが、金網柵の広告看板の掲示の契約期限が五月までであるので、それ以後に回答するとの返事を得た。

5  原告は、昭和五七年四月二四日、被告高嶋と本件土地(二)の価格につき話合い、被告金に対し、坪二六〇万円ないし二八〇万円なら言い値で買う心づもりをするようにと伝え、被告金の希望により、本件土地(二)の評価証明書、測量図面、登記簿謄本を取寄せ、被告金に渡した。

6  原告は、昭和五七年四月三〇日、被告金に対し、右土地は登記簿上一筆で地目は田のままであるので購入する場合は分筆手続をし、雑種地又は宅地に変更しなければならない等の説明をした。

7  原告は、昭和五七年五月二〇日、被告高嶋の妻と話合い、本件土地(二)について問合わせると、被告高嶋が検討中であるとのことであり、同年六月一〇日に被告高嶋方を訪問して被告金の買取希望を伝え、同月一五日に被告高嶋の妻に対して問合わせると、被告高嶋がもう一筆土地がありどちらを売るか困つているとのことであつた。

8  ところが、被告金は、原告に対する仲介報酬の支払を免れる目的で、昭和五七年七月二七日ころ、原告を排除して被告高嶋との間で直接本件土地(二)の売買契約を締結し、同日、本件土地(二)につき被告高嶋から被告金の妻に対する所有権移転登記をした。

五  原告と被告金の間には原告の仲介により売買契約が成立したことを停止条件として被告金が建設省告示の上限の報酬を支払う旨の約定があつたのに、被告金は、直接取引を行つて右停止条件の成就を妨げたものであり、また、右行為は信義則に反するものであるから、原告は、被告金に対して仲介報酬の請求をなしうるものである。本件土地(二)の代金は坪二六〇万円を下らず総額三億五六九〇万円相当であり、その仲介報酬金額は一〇七六万七〇〇〇円となる。

六  仮に仲介契約の当事者が被告金でなく、その妻であつたとしても、被告金の右行為は仲介の成功を妨害する行為として不法行為となり、原告に対し、右仲介報酬額相当の損害を賠償する責任がある。

七  被告高嶋は、右事情を知りながら被告金と共謀して原告を排除して直接取引をしたもので、右行為は原告に対する不法行為となるから、原告に対し、一〇七六万七〇〇〇円の仲介報酬額相当の損害を賠償すべき義務がある。

八  よつて、原告は、被告金に対し、仲介報酬請求として前記三の残額金六六四万九四〇〇円、主位的に仲介報酬請求、予備的に不法行為による損害賠償請求として、前記五の金一〇七六万七〇〇〇円、以上合計金一七四一万六四〇〇円およびこれに対する昭和五七年七月二八日から支払済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を、被告高嶋に対し、不法行為による損害賠償請求として前記七の金一〇七六万七〇〇〇円およびこれに対する同日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。<以下、省略>

理由

第一被告金に対する請求について

一<証拠>を総合すると、原告は、明生商事の名称で不動産売買の仲介等を業とするものであり、被告金は、パチンコ店経営をしているものであること、原告は、昭和五五年春ころ、被告金から、事業用地としてパチンコ店用地、病院用地、老人向マンション用地等に適当な土地を買受けたいのでその仲介をしてほしい旨の依頼を受けてこれを承諾したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

二<省略>

三<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

1  原告は、被告金の依頼により、各方面の土地を調査し、情報を収集し、被告金とその従業員を二・三か所の土地に案内したが、被告金が昭和五六年後半ころから淀川区内の新大阪駅周辺、東三国周辺地域の土地を取得したいと要望したので、以後その方針に従つて土地を調査してきた。

2  原告は、昭和五七年一月一三日、被告金とその従業員小森清作、小米良健二を原告の車で淀川区西中島七丁目所在の三二坪の土地、同区西三国一丁目一四所在の一五八坪の土地、同区東三国町三丁目一〇六番所在の被告高嶋所有の本件土地(但し、当時は分筆前で地目田、地積一二九二平方メートルの一部)とその隣地の七八坪の土地に案内したところ、被告金は、本件土地(二)を取得したいので所有者の被告高嶋と交渉してほしい旨を依頼した。

3  被告金は、昭和五七年一月一四日、原告の事務所にきて原告に対し、本件土地(二)の買収の希望をくり返すとともに売らないのなら借りてもよいと述べたので、原告は、同月二二日、被告高嶋方を訪問して同被告に会い、パチンコ店経営者が本件土地(二)の買受を希望しているので売つてほしい旨を申入れたところ、同被告は、考えておくとのことであつた。

4  原告は、昭和五七年一月三一日、被告金が事務所にきたときに、本件土地(二)について被告高嶋に買受申入をしたことを報告し、引続き交渉を続ける旨を話したところ、被告金は、本件土地(二)を売らないのなら借りてもよいし、隣地の近藤保夫所有の七八坪の土地を買取つてこれと本件土地(二)を交換してもよいと述べた。

5  原告は、昭和五七年二月二二日、被告高嶋方を訪問して同被告に対し、本件土地(二)の購入希望者が被告金である旨を告げて売却してほしい旨申入れたところ、被告高嶋が本件土地(二)はモータープールとして賃貸しており、その借主には一か月前に予告することによつて契約を解除し明渡を受けられるが、本件土地(二)の境界の金網柵に掲示している広告看板の契約期限が同年五月中であるので、その期限がきれてから回答すると答えたので同月二四日、被告金に対し、この話を伝えた。

6  原告は、本件土地(二)の境界等を現地で調果し、資料を調べ、価格調査をしたうえ、昭和五七年四月二四日、被告金に対し、本件土地(二)の価格は坪二六〇万円が適当であり、坪二六〇万円ないし二八〇万円なら買う心づもりをするようにと話し、その際、被告金から本件土地(二)の関係資料をみたいとの要望を受けたので、同月二六日に淀川区役所で評価証明書の交付を受け、同月二七日に大阪市開発局北部事務所で仮換地測量図面を調査して図面の写しを作成し、同月二八日に登記簿謄本を取寄せて、同月三〇日、被告金にこれらの書類を交付するとともに、購入する場合に分筆と地目変更の手続を要する旨を説明した。

7  原告は、当時、被告高嶋の妻から同区東三国一丁目所在の同被告所有のアパートの賃借人の斡旋の依頼を受けてこれを紹介していたが、昭和五七年五月二〇日、右依頼のため原告の事務所にきた被告高嶋の妻に対し、本件土地(二)を買いたいのでよろしく伝えてほしい旨申入れたところ、被告高嶋が建物を建てて貸すことも考慮し、検討中であるとのことであつた。

8  原告は、昭和五七年六月一〇日、被告高嶋方を訪問して同被告に会い、本件土地(二)の買受を再度申入れたところ、被告高嶋は、検討中であり、貸すことも考慮している旨答えた。

9  原告は、昭和五七年六月一五日、アパート入居者の斡旋依頼のため原告の事務所にきた被告高嶋の妻に対し、本件土地(二)の売却をすすめてほしい旨依頼したところ、土地がもう一か所別にあり、どちらを売るか困つているとの返答であつた。

10  被告金は、原告に被告高嶋との交渉を依頼する一方、従業員の小米良健二を通じて、伊藤や被告高嶋と親しい佐野公親に被告高嶋との本件土地(二)の買受交渉を依頼し、伊藤、佐野から被告高嶋に買受申入をした結果、原告には通知することなく、昭和五七年七月二六日、被告高嶋との間で、本件土地(二)につき売主被告高嶋、買主被告金の妻崔錦採とし、代金坪二六〇万円の一三二坪分合計三億四三二〇万円とする売買契約を締結し、同日、被告高嶋に対し、右代金全額を支払つて、同月二七日、崔錦採に対する所有権移転登記を了した。

以上の事実が認められる。

右事実に前記一の事実を合わせ考えると、原告は、昭和五五年春ころ、被告金から事業用地買受仲介の依頼を受けて後、各方面の土地を調査し、情報を収集して、被告金に数か所の土地を紹介、案内し、昭和五七年一月一三日に本件土地(二)の案内を受けた被告金よりその取得の要請を受け、以来、所有者の被告高嶋やその妻に被告金の買受希望を申入れて交渉をする一方、本件土地(二)の境界、価格の調査を行うとともに被告金に評価証明書、測量図面、登記簿謄本等の書類を交付し、適当と考えられる価格を提示し、その売買契約成立に努力してきたのに、被告金は、原告に対して何の通知連絡もなく、被告高嶋との間で本件土地(二)につき代金額を原告提示の金額とする売買契約を締結したものであるから、右売買契約は、原告の仲介によつて成立するまでの段階に至つていたのに、被告金が原告に対する仲介報酬の支払を免れる目的でことさらに被告高嶋との交渉に努力していた原告を排除して直接締結したものと認めるのが相当であつて、被告金は、右売買契約が原告の仲介にもとづいて成立したものとして、原告に対し、相当の報酬を支払うべき義務を負うものというべきである。

<証拠>を総合すると、仲介報酬に関する建設省告示によると、仲介報酬の限度額は代金が二〇〇万円以下の金額についてはその一〇〇分の五、二〇〇万円をこえ四〇〇万円までの金額についてはその一〇〇分の四、四〇〇万円をこえる金額についてはその一〇〇分の三と定められていること、原告は、売買代金額が高額の場合には右限度額から話合により減額することがあり、その場合代金額の二パーセントを最下限としていることが認められ、右認定に反する証拠はない。

右事実に前記認定の原告の行つた仲介行為の内容、契約成立に至る経過、売買代金額等をも総合すると、右報酬額は売買代金額の約二パーセントに当る六八〇万円とするのが相当と認められる。

四そうすると、原告は、被告金に対し、仲介報酬として前記二の金七〇〇万円から支払を受けた金一〇〇万円を控除した残金六〇〇万円、前記三の金六八〇万円の合計金一二八〇万円およびこれに対する売買契約成立日以後の昭和五七年七月二八日から支払済まで年六分の割合による遅延損害金の支払を求めうるものであるが、原告のその余の仲介報酬請求は理由がない(仲介報酬請求権の不存在を前提とする予備的請求については判断しない。)

第二被告高嶋に対する請求について

原告は、被告高嶋は被告金と共謀して原告を排除して直接取引をしたもので、右行為は原告に対する不法行為となる旨を主張する。

被告金は原告に対する仲介報酬を免れる目的でことさらに被告高嶋との交渉に努力をしていた原告を排除して直接被告高嶋との売買契約を締結したものであることは前記第一、三で判示したとおりであり、被告高嶋は、原告から、昭和五七年二月二二日と同年六月一〇日の二回本件土地(二)の売却についての交渉を受け、妻を通じてもその申入をされていたものであることは前記第一、三で認定したとおりであるけれども、他方右認定の事実によると、被告高嶋は、原告からの右申入に対しては単に考慮中である旨の返答をしただけで売渡についての確約をしたわけではなく、確答を保留しているうちに親しい友人の佐藤公親からの同様の申出があつたのでこれに応じて被告金との売買契約を締結するに至つたのであるから、被告高嶋が被告金より原告以外の者を通じての申入を受けた場合に、原告から同旨の申入を受けていたからといつて必ずこれに応じて原告以外の者を通じての申入を拒否しなければならないという義務を負うわけではないのであつて、被告高嶋が右のとおり原告よりの申出に対して確答を保留している間に被告金から佐藤を介してなされた同様の申入に応じて被告金との間で売買契約を締結した行為が社会的に許されない違法な行為であるとまで認めることはできないし、被告高嶋が原告と被告金との間の仲介契約締結や原告によるその実行状況を知りながら、被告金にことさら原告に対する仲介報酬を免れさせる意図をもつて被告金と共謀して原告を排除したとの事実を認めるに足りる証拠もない。

したがつて、原告の被告高嶋に対する請求は理由がない。

第三よつて、原告の被告金に対する請求は主文第一項掲記の限度でこれを認容し、その余の請求を棄却し、被告高嶋に対する請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官山本矩夫)

物件目録

(一)(1) 大阪市淀川区西宮原町一丁目二七番三

宅地 一六五・二八平方メートル

(2) 大阪市淀川区西宮原町一丁目二七番四

宅地 一六五・二八平方メートル

(3) 大阪市淀川区西宮原町一丁目二七番五

宅地 一六五・二八平方メートル

右三筆に対する仮換地

大阪都市計画事業新大阪駅周辺土地計画区画整理事業六〇六ブロック符号五号

宅地 四四六・五六平方メートル

(二) 大阪市淀川区東三国町三丁目一〇六番二

雑種地 六五七平方メートル

右土地に対する仮換地新大阪駅周辺工区八〇七ブロック二符号四

現況宅地 四五八・五七平方メートル

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